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《「にほんのこころ」は平成14年から15年にかけて取材させていただきました 》

薄く削られた真っ白な千枚漬は、京都の食卓には欠かせない冬の味です。現代の名工に選ばれた村井明さんの手から生み出される千枚漬は、味にうるさい京との人々にも愛されています。そんな今でも手作りの漬物にこだわる東山八百伊さんを訪ねます。



千枚漬
京都の冬
 
 
北山がしぐれ、鴨川にユリカモメが舞い、四条の南座に顔見世のまねきが上がると京都も本格的な冬です。
そしてその寒さとともに京つけものも旬を迎えます。
   
歴史
 
千枚漬は、約140年前、御所の大膳寮で料理方をつとめていた大藤藤三郎の発案です。
ある漬物屋が売っていたかぶらの漬物からヒントを得て改良を加えたのが今の千枚漬の始まりです。
薄く削ったところから「千枚にも削ったのでは」と言われたのがこの名前の由来です。

「はんなり、という京ことばがありますが、千枚漬けはまさしくその『はんなり』だと思います。」と村井さん。
 
 
 
京漬物

 

 

 

 
京漬物といえば、「すぐき」「紫葉漬」そして「千枚漬」。それぞれの土地の気候風土や生活習慣の中から、先人たちが知恵を絞って古くから伝承されてきたもの。
また「壬生菜」は千枚漬には欠かせない添え物です。千枚漬の白を御所の玉砂利に、壬生菜を緑の松に見立てます。
 
 

千枚漬の工程

 
 
聖護院かぶら
千枚漬には、京都の隣、丹波・亀岡の聖護院かぶらが使われます。盆地ならではの深い霧と著しい寒暖の差で、きめ細かく、身の締まったかぶらが育つのです。
 
 
腰が低く幅のある、鏡餅のような形のかぶらを好んで使用します。「お鏡さんのような腰の低いのがええんです。」
腰が低いと、千枚漬の枚数は取れませんが、味はこの形のものが美味しいのです。
 
   
皮をむく

 

 

 

 
早朝、かぶらが丹波から届くと、すぐに皮をむきます。大胆に、びっくりするほど厚くむきます。大根で言う「しょうじ」という部分もむきます。美味しい部分だけを千枚漬にするのです。
   
カンナでかく
 

 

 

 

 

そのかぶら一個を大工さんのカンナの大型のもので約30枚ほどに「かき」ます(削ります)。厚さは約2mm。一個かくのに12〜3秒。機械よりも早く、正確な手仕事です。かきながら、水分の状態、手で受けた時の手触りでかぶらの良し悪しを判断します。四斗樽に使うかぶら、約72個を一気にかいていくのです。

 
かぶらを並べる
 
 
カンナでかいたかぶらを均等に並べます。これは味が均等にいきわたるための大事な作業。また、かぶらや昆布の粘りで、この形は製品になるまでずっと保たれます。
 
下漬け
 
 
次に塩で下漬け。この塩加減で味の7〜8割は決まります。この塩加減が一番難しい。
「千枚漬けは塩加減が一番大事です。繊細なものなので気候で味が変わります。例えば、暖かいと心持ち塩をたくさんにし、寒くなったら日数を延ばすとか、塩は下のほうに落ちてくるので下は薄め、上は多めにします。」
 
 
 
そして重石(おもし)。重石を乗せたら、あっという間に水があふれ出します。

「昔から、おやじが言っていたのは、『重石を乗せたら樽は動かすな』と。それからよう怒られたんが、重石の上に物を乗せる事。今でもアルバイトの子が乗せたりするんですが、それやられるとかぶらの色が変わるんですわ。水分を吐き出したり吸いこんだりしますので絶対にやったらアカンのです。」
   
昆布に酢をかける
 

「お昆布(こぶ)はええもん使え、と親父から聞いていました。」昆布は北海道の利尻昆布。2〜3年寝かした口当たりが良くまろやかな味になります。新しいものだと汁が濁り、粘り気も強すぎるからです。
その昆布に京都の米酢をかけます。そうすることで、昆布のうまみを引き出し千枚漬けに少しの酸味をつけるのです。

   
水をきる

下漬けした日から4日目。水がこんなに上がってきました。

 
樽をひっくり返して、余分な水分や塩分を切ります。本漬けのミツを充分に吸うようにするためです。
 
本漬け
昆布をのせ、砂糖と秘伝のミツをかぶらに振りかけます。ミツは味醂を中心にそれぞれの漬物屋が秘伝の味を持っています。その上にかぶらをのせて、また昆布、砂糖、ミツ・・と交互に重ねていきます。
   

そしてまた、かぶらは再び重石を乗せられ、短い眠りにつきます。

 
   
樽を開ける
 
 
漬け初めて6日目に千枚漬は完成します。 昆布の粘り気が美しい艶となっています。
   

 

 
「毎朝、あがってくる千枚漬けを食べます。今日はどやろな、 あー上手いこといってるわ・・とか、親父のとはこんなふうに違うわ・・と思うてみたり・・・塩かげんが今日はきつかったな・・と思うたり・・・。うちは固定客が多いので味は変えたくないんです。」
   
思い
三台のかんな
千枚漬のカンナは桜の一枚板でできています。水分を多く使うので狂いが生じないように長時間乾燥させたものを使います。
現在、東山八百伊には3台のカンナがあります。
 
「このカンナは親父が暖簾(のれん)分けのときにもろうてきたもので、丁稚(でっち)時代に修行したものです。今は傷んでいるけれど、この店の歴史やなぁということで置いています。」
 
「これは私が今使っているカンナです。刃の調節は機械やったらボルトでするのかもしれませんが、これは竹で厚さの調節します。」
 
「今自分が使っているのは私の親父が用意してくれました。私も息子のためにこのカンナを用意しました。良い桜の木がなかなか手に入らないので息子用に買ってあります。今、機械化が進む時代・・・使うかどうかは息子が決めることです。」
 
手作り
 
「今でも手作りにこだわるのは、形は揃わないかもしれませんが、手作りのほうが丸みがあって、あたたかみのある味になると思うからです。」

「また、父からの味を好んで下さるお客様のためにも味を変えたくありません。東山八百伊の味は私が美味しいと感じる味です。それにお客様がついてくださればありがたいです。言うことありません。」
   
京料理として
 
「漬物は、本来脇役と言われています。ただ、千枚漬だけは、見た目も味も、京料理に近いと思っています。『千枚漬は京料理』と言って昔怒られた事があるので、大きなことは言えませんが、できれば、京料理の一部であるとの誇りを持ってこれからも作っていきたいと思っています。」
 
自分で学ぶ
 
「千枚漬の一番の決め手となる塩加減・・。私も先代の父には、何も教わりませんでしたし、教えてはくれませんでした。私も息子に教えていません。やる気があれば自分で見て学んで欲しいと思っています。」
 
ともだち

「私にとって千枚漬は『ともだち』です。いまだに多くのことを教えてくれます。これからも、いつまでも、お付き合いさせて欲しいと思っています。」

東山八百伊
〒605-0812 京都市東山区東大路松原下ル4丁目毘沙門町44
TEL 075-525-0801 FAX 075-561-4682

 
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