2 萱葺  根岸照彦

モース・コレクションの「百年前の日本」という本に、
箱根の街道で、萱葺の家がズラーットならんでいる、実に壮観な写真がある。  
昔は、このような萱葺の家並みが、民家も町屋も区別なく、普通にあったのであろう。  
萱葺は人々の身近に有り、年々産まれる材料で、その人々が自ら屋根仕事をする、
まことに、理にかない、自然にかなっている材料である。
断熱性に優れているのはもちろんのこと、通気性もよい。
断熱性がよくて、通気性がよいとは矛盾しているように思えるが、それが、自然の材料なのである。  
今の家は、機密性のことばかりいい、アトピーだ、家ダニだと騒いでいる、おかしな話だ。
機密性ではなく、通気性が大事なので、それが、建物が生きていけるあかしである。
 
茶室で、草庵式というのがある。
草の庵、つまり草葺(萱葺)の、そまつな庵とでもいえばよいのでしょうか、
あるいは田舎屋風とか、侘た茶室とも解せます。
どちらにしても草の庵ですから、萱葺が似合います。
しかし、ここでいう萱葺は、茶室の萱葺であって民家の萱葺ではない。
民家の萱葺を小さくしただけの萱葺は、小さい民家の萱葺であって、茶室の萱葺と違う。
茶室の萱葺は、茶室の萱葺。民家の萱葺は、民家の萱葺。である。 

生まれて初めて、茶室の萱葺の葺替を見、指揮をしたのは昭和四十八年、二十六才の時でした。
見ること、聞くことが嬉しくて、今、その時のノートを開けてみると、非常に興奮していたのか、 下手な字が、なおさら下手になっていて、よく読めない。
せっかくの記録が、残念ながら意味不明なところが多い。

この萱葺の仕事の中で、感動したことは山ほどあるが、
なかでもとりわけ感じたのは、萱葺の下を四分ほど残して葺替たことです。 

なーんだ日本の建築というのは、人間と同じように新陳代謝をしているんだ。

 
 
茶室の萱葺き
 

 

 

1 葺き替え前の屋根。


  2 萱(かや。右上の部分。)と柿(こけら。手前の部分)と瓦(左奥の部分。)の苔むした葺き替え前。
 
3 古い萱をはずす。

  4 下地の小舞竹(こまいだけ)が出てくる。
 
5 萱(かや)。茅とも書く。葭(よし)のこと。
11月から2月までが刈り取り時期。


 

6 萱を葺く前に軒付(のきづけ)を施す。中央に並んで見えるのが軒付。
軒先に葭を短く切り、並べてつなげていく。


 
7 軒先から縄でくくりながら編み付けていく。

  8 萱葺きと柿葺きの間を整えているところ。


 

9 形を整えながら縫竹(ぬいだけ)で押さえていく。

  10 縫竹と下地の小舞竹との間に縄を通し、萱を挟みこんで止める。
 
11 内側から軒付と萱を見たところ。


  12 側面から見れば、古い萱の上に、新しい萱が葺かれているのが良くわかる。新陳代謝。
 
13 棟部分まで萱が葺かれた状態。

  14 棟化粧の為の杉皮を作っているところ。
 
15 棟化粧は雨漏りを防ぐ役割をしている。
棟の部分を一段厚くして萱を杉皮でくるむ。
そこに、からみ竹という太い竹をのせる。

  16 杉で巻いた部分をはさみで整える。


 
17 さらに杉で巻いた萱をのせる。
枕に似ているので枕萱と呼ぶ。

  18 さらに棟竹をのせて棕櫚縄で結ぶ。
棟化粧の完成。
 
19 上部より「平ばさみ」や「小ばさみ」で全体を刈り込んでいく。

  20 「たたき」という道具でなみ揃えをする。

 
21 瓦部分、柿部分を整える。

  22 完成。2 と比較すると違いが良くわかります。

 

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