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5 引き摺り(ひきずり) 根岸照彦
侘びたる茶室の壁の仕上げに、「引き摺り仕上」という壁の仕上げ方法があります。 侘びたるというところがミソで、侘びていなければならないのであります!
侘びているとはどのようなデザインなのであろうか? この侘びているデザインが実は大変に難しい。
侘びているのか、こびているのか、イバッテいるのかよくわからないデザインが多い中で、この侘びているデザインは実に難しい。侘びているとは、悟っているのである。そのような形になるときは、そのような形になるのであって、その空間に逆らわない、そのままの形が侘びていることになる。そして静かに・・。
いいたいことは、壁の話であって、総論のデザインの話ではありません。
壁は、綺麗にツルッとシワが無く塗られることが理想であります。理想と言うよりは当たり前であります。しかし、「引き摺り仕上げ」という壁の手法は、このこととはまったく逆で、シワだらけの壁を良しとした、摩訶不思議な壁の塗り方であります。
シワだらけの壁なら誰にでも塗れると、早合点してはいけません。このシワの付け方が、誰にも出来ない職人の技術なのです。
職人の技を、ただ単に技術とだけで表現したくはありませんが、今ここでは紙数がたりませんので、このまま進めます。
シワの付け方が誰にも出来ない、特殊な技術、もとい、技術ではない職人の心なのです。やたらスジやシワをつければよいのではないことは一目瞭然です。
私は始めて「引き摺り仕上げ」をみた時に、シワの具合をみて、鏝は木鏝で塗っていると思ったのです。そのほうがシワが出やすいからです。しかし、実際に現場で塗っているところを見ると、以外や金の鏝で塗っていたのです。木鏝はただのシワで、金鏝はただのシワではない、作るシワなのです。これは難しいでしょう・・。「引き摺り仕上げ」の出きる職人は、残念ながらあまりおりません。
侘びたる風情の茶室に、壁がツルリンでは、綺麗なだけで侘びたる風情にはなりません。茶室の壁面にイヤミなく、シワがきれいに。シワがきれいにとは変な話ですが、お年よりのシワの綺麗な人と同じように侘びたるシワ、それが「引き摺り仕上」です。
土壁
引き摺り仕上げ
壁土匠 片田儀斎氏
2001年8月6日
現在では土壁はなかなか見る事は無くなりましたが
それでも日本の風土に合った土壁は 上品で侘びた美しさがあります。
土壁を完成させるためには様々な工程を経ていきます。
下地を作り何工程かを経て、最後の上塗りをします。
今回ご紹介するのは「引き摺り仕上げ」という「上塗り」の工程です。
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左官の道具。 機能的な美しさ。
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中塗りが乾燥した状態の茶室。
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引き摺りの表情を出す為に、もういちど中塗りの上に土を塗ります。 |
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片田儀斎(ぎさい)氏。この道七十数年。
片田氏は、茶室の中の炉壇を作る炉壇(ろだん)師でもあります。
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この引き摺り鏝(こて)だと、土が壁につきすぎず、鏝にもつきすぎず、いい感じにできるんだ・・・と儀斎氏。 |
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舟(材料を練り合わせるための箱)に土と水を入れて混ぜ合わせます。
「糊捏ね(のりごね)塗り」の方が簡単ですが、「水捏ね(みずごね)塗り」の方が強く長持ちします。ただ非常に難しく熟練した技術を要します。土壁の最上級の仕上げとされます。
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コテ板に土を乗せ、すくうように鏝を壁にあてて塗って行きます。 |
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茶室の中で一心に壁を塗ります。
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引き摺りの表情。
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このカーブの部分が熟練を要します。
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ある程度乾いた状態です。引き摺りの表情が良く出ています。 |
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床の間落掛に書かれた片田氏のサイン。
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壁を塗る・・・ただそれだけで奥深く静かな美しさがあることを教えていただきました。
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