辰野勇

1.決断

 野遊びには、いろんな効用がある。自然を 肌で感じ、自然の優しさや厳しさの中で教えられる事は多い。森羅万象、人も、虫けら同様、自然の懐にあって、自然に生かされる存在である事に気付かされる。

1969年、アイガー北壁を登攀する筆者

 しばしば、人の一生が登山にたとえられる。
 なるほど、山登りにはドラマが有る。綿密 な計画と余念のない準備、そしてその計画の実行。さまざまな問題を乗り越えながら目標に向かって進んでゆく。その過程で繰り広げられて行く人間模様、それがドラマだ。

「いわゆる勉強の出来る子供(生徒)達には、必ずといっていいほど共通点がある。」 と、ある教育者が私に話してくれたことがある。その共通点とは、”集中力””持続力” ”判断力”の三つだという。彼らが、受験勉強という困難なハードルを越えて行く過程でそれらの力を身につけたのか、或いは、そのような潜在能力を持った者だからこそ、受験競争の高いハードルを越える事が出来たのかは知れないが、いずれにしても彼らの中に、そのような共通点があるというのだ。
 私は「なるほど・・」と関心した。

 せんえつな話だが、自分はそれらの要素を人一倍持ち合わせているのではないかと、ひそかに自負している。但し、学生時代の成績は、お世辞にも「出来た」とは言えない、ひどいもので、いつも席次は後ろから数えて1、 2を争っていた。
 そんな私が、それらの能力を身につける事が出来たのは、山登りのおかげではないかと考えている。
 登山に限らず、人が一つ物事を成就しよう と思えば、当然これらの要素が求められる。
 いわんや、登山中の判断は、一つ間違えれ ば命にもかかわるほど重要だ。更に、集中力を研ぎ澄まさなければならないし、この緊張感を持続出来なければならない。

 この話を、当社の顧問弁護士に話すと、彼は「ビジネスに要求されるのも同じですね。」 と同意したが、更に「経営者にはもう一つ、 重要な要素があるんじゃあないですか?」と付け加えた。「もう一つの要素?」すると彼は、「それは、”決断力”ですね。」と言い切った。「決断力!」たしかにそうである。
 トップの仕事の90%は”決断する事”と言っても過言ではない。
 そして迅速な”決断”こそ、登山活動において、必要且つ欠くべからざる要素でもあるのだ。
 客観情勢をいくら冷静に”判断”できていても、それに対応するべき行動を決めかねて実行できなかったのでは何にもならない。
 先行きの不透明な時代にあって、強力なリ ーダーシップが必要とされる今、求められるのは、既成概念にとらわれること無く、未知の分野に、思い切った一歩を踏み入れる勇気を持った”決断力”ではなかろうか。

2002.4.20 掲載
野遊びのススメ
1 決断 2 カヌーを漕ぐ 3 チベット少数民族モンパ族

4二月堂の冒険

5奈良の鹿

6 社長室は幼稚園バス
ヒマラヤの川を下る(自然に生きる村人たち) 8 除夜の鐘 9 アウトドア義援隊