文・写真 辰野勇

5.奈良の鹿

 なら町の良さは、古い建物と自然との程よい調和にある。そして飛火野の鹿は、そんな 情景に、更に一服の風情を添えている。

 奈良公園には一千頭以上の鹿たちが自由奔 放に町中を歩き回っている。こんな町は世界中のどこを探しても他にない。

 先日、カナダから友人が訪ねてきた。彼はユーコン川のカヌーガイドだ。鹿はおろか、グリーズリーベアーさえ珍しくない大自然の中で暮らしている。そんな彼でさえ、飛火野で、何の警戒心も持たずに、のんびり草を食む鹿たちを見て感動した。
「おいしそうだね。」
「えっ!」
「あの鹿、フトモモのあたりがおいしそうじ ゃないか。」
「・・・・・・・・・。」

 彼の感動はどうやら、獲物がこんなに無防備で無邪気に草を食んでいる姿にあったよう だ。私のけげんな顔に、彼は慌てて、「冗談、冗談。」
 いやいや、今のはまんざら冗談ではなさそうな顔つきだったけれどな・・・。

 そういえば、数年前にカリフォルニアのモントレー水族館の水槽で優雅に泳ぐ鯛やヒラメを見て私は、「あの魚、刺身にしてわさび醤油で食べたらおいしいぞ。」と舌なめずり して、アメリカ人の友人に、ひんしゅくをかってしまった事を思い出した。

 国が違えば生活習慣も異なる。捕鯨の是非をめぐって激しく議論を戦わせたIWCの下関会議。鯨を捕らえる論理と、保護する論理。

 互いの文化の違いを理解しあうには、まだまだ時間がかかりそうだ。

2002.9.21 掲載
野遊びのススメ
1 決断 2 カヌーを漕ぐ 3 チベット少数民族モンパ族

4二月堂の冒険

5奈良の鹿

6 社長室は幼稚園バス
ヒマラヤの川を下る(自然に生きる村人たち) 8 除夜の鐘 9 アウトドア義援隊