文・写真 辰野勇

8.除夜の鐘

 春夏秋冬、なら町の四季はたっぷり季節を楽しませてくれる。もみじが落ちて、山茶花 (さざんか)の真っ白な花が咲けば、ヒヨド リたちが気ぜわしく柿の実をついばむ。そんな風情に古都の鐘の音がよく似合う。

 先日、遠来の嬉しい客人が我が家を訪れた。
 2000年にグラミー賞を受賞した音楽奏者の喜多郎さんだ。一年のほとんどを米国コロラド州の山荘で過ごす彼は、今、四国八十八ヶ所の寺の鐘の音を収録する「遍路」の旅を続けている。その道すがら、我が家に立ち寄ってくれたのだ。心の芯に響く鐘の音を、彼の音楽に取り入れようというのである。

しかし、「先の戦争で、鉄砲や大砲の材料として軍に供出させられて、鐘の無いお寺も少なくない」と彼は言う。あるいは、「鐘はあっても、住宅化が進んだ近隣への配慮から、長い間ついていない」というお寺も珍しくない。そんなお寺の梵鐘(ぼんしょう)の復活を、彼は願っている。

 重さ26トン以上の巨大さゆえに、軍への供出を免れた東大寺の大鐘は、幸い人を殺( あや)める道具に溶かされてしまうこともなく、敵国の文化財への配慮のおかげで、空襲を免れたのも皮肉な話である。


 毎夜8時に欠かさずつかれる大鐘の音。

 大仏開眼以来、幾多の戦乱の世をくぐり抜け、千年の時を告げてきた鐘を守り続けた人々にふと思いを寄せる。

 年の瀬、悲喜こもごもの思いを胸に、今年もまもなく過ぎようとしている。

 元旦の0時からつき始められる百八つの除夜の鐘の音が、世界中の煩悩(ぼんのう)を振り払い、来年こそは紛争のない「平和」が実現する事を祈りつつ、未来永劫、この国に鐘の音が鳴り響く事を願わずにはいられない。

2002.12.21 掲載
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