柳原範夫  
問われる企業経営者の経営理念


 近年、我国に於いて、経営者の経営理念が問題になる出来事が多発しているのは、真に残念なことである。

 不況の為に企業経営者は社会的責任を忘れて、目先の利益を追求するあまり、つい悪いこととは知りながら、好ましからざる行動に走り、やがて企業の存亡を問われる大事にいたることも、少なくない。


 かつて、江戸時代に商人の悪事を戒めるために、井原西鶴は『世間胸算用』の本の中で、≪悪事は必ず露見する≫という例を足切り八助の蛸売りで戒めている。

 この男は魚の行商を営んでいたが、生来の欲深で蛸の足を一本ずつ切り取り七本足にして売り切り取った足を纏めて煮売り屋に売る売るという商売をしていた。蛸は腹が減ると自分の足を食うと言い逃れる積もりであった。しかし、さらに欲深くなり、やがて、一本ではすまなくなり、二本ずつ切り取って売ろうとした。

 しかし、物には限度があり、いつかは露見せずにはすまされないものである。

 ある時お屋敷の娘に呼び止められ、六本足の蛸を売ろうとしたが、中から出てきた武士が皿の上の蛸をみて、「裾の枯れた蛸ではないか、足は八本のはず数えてみろ」と八助にいった。八助は六まで数えて後が続かない。武士は武道の心得もあり、八助の襟を捕まえようとした。八助は金も貰わず一目散に逃げた。

 その後このことが世間に知れて、足切り八助と言われ、誰からも相手にされなくなり自分の身を滅ぼしたと言う。

 「正路の商売」こそ大切なのであると、西鶴は戒めている。
 何時の時代にも通じる話ではなかろうか。

2002.9.21掲載

1.井原西鶴に学ぶ知恵と才覚 2.石田梅岩と売利の本質 3.二ノ宮尊徳と五条講
4.問われる企業経営者の経営理念 5.江戸時代の商家の家法や
  店則から学ぶもの