柳原範夫  
江戸時代の商家の家法や店則から学ぶもの

 江戸時代の大店と称される大商人の家には、大抵、家法や店則と称される今日の企業の社是、社訓に類するものが存在していた。

 家法はその店の代々の、当主が守るべき経営方法や、経営方針を文章化したもので、時には文章化されないで、口伝という形態で伝えられていくものがあった。之に対して店則はその店の従業員に対して守るべき道をしめすものが一般的であった。しかし、今日伝わっている家法は家訓や店則を合わせた物が多く残されている。
 
 家訓として最も著名なものは、三井八郎兵衛高利が子孫に残した三井家の家訓であろう。
それは、大店の当主として、守るべき商売の道 { 正路の商い } について、示したものである。

 また、近江商人の代表としてあげられる中井家の家訓等も商売の本質を { 三方の利 } の追求としているのは既に世に知られているものである。

 江戸時代には江戸や難波の大商人の店には、当然家訓にあたるものが存在していたが、特に京都の老舗と称されている店には、家法として当主の守るべき規則が株式会社となった今日でも昔のものと、余り変わっていない形で残っているものが多く見られる。それらのものを見ると、家訓というよりもむしろ家法であり、特に口伝として、文章に残さないで、親から子に言い聞かせていくというものが少なくない。  

 今から十数年前に京都経済同友会の会員企業を対象に、家訓、社訓、社憲等についての実態調査を行なったことがある。その結果他の都市と著しく異質であった点は、口伝の多さであった。また、内容的には出来るだけ政治にかかわらないこと、従業員を大切にすること、を示されたものが多く見られた。
 時の権力者の期間は決して長くは続かないことを目の当たりにして覚えた生き残る手立てとしては、当然のことであるし、また、信用に強く依存する商売の原点は従業員の質にあることを身をもって知らされたからであろう。

 今日、リストラの名のもとに多くの従業員が解雇されている。企業の存続の為には止むを得ない方法かもしれないが、何時かその報いはその企業に現れることを、我々は歴史から学び取ることも大切である。

2002.11.22 掲載

1.井原西鶴に学ぶ知恵と才覚 2.石田梅岩と売利の本質 3.二ノ宮尊徳と五条講
4.問われる企業経営者の経営理念 5.江戸時代の商家の家法や
  店則から学ぶもの