「茂山宗彦・茂山逸平と 狂言へ行こう」旬報社刊 より抜粋
 
     
     
 
狂言とは
 
 狂言は、簡単にいうと"室町時代の吉本新喜劇"といえると思います。

 たとえば、吉本新喜劇には「この人がこのギャグをするとこういうリアクションがある」というパターンがあります。同じように狂言にも、最初に登場する人物が決まった名乗り(自己紹介)をして、道行(みちゆき―ストーリーが展開する場所へ行くという設定で舞台上を歩く)がある、という一定のパターンがあります。また、名も無い一市民を主役にして、日常生活での笑いをすくい取っていることや、笑いの質がドライでカラッとしている点なども似ています。ただ、狂言ではズッコケたり、役者が素顔に戻って笑ったりはしません。狂言師たちは決められた芝居をします。その中で生まれる笑いが狂言なのです。

 そして、狂言は会話劇です。その言葉は、狂言が成立した室町時代の人たちが日常で話していた言葉です。この室町口語(むろまちこうご)はいまの日本語の基礎になる言葉ですので、現代の私達にもとてもわかりやすいものです。

 狂言は伝統芸能の中でも、現代の芝居に近いスタイルだといえるので、私は狂言を「伝統芸能」ではなく「伝統的芸能」といっています。狂言は600年という長い年月の間に練られ、洗練され、いまなお、皆さんに親しんでいただける現代に息づく芸能なのです。
 
 
狂言の発生とこれまで
 
 「狂言」という文字が文献に初めて登場するのは、いまからおよそ650年も昔、室町時代のことです。狂言の前は「猿楽(さるがく)」(平安、南北朝時代)、その前は「散楽(さんがく)」(奈良時代)と言われていました。「散楽」とは中国から渡ってきた大衆芸能のことです。

 「猿楽」は「散楽」のおもしろい部分を強調し、ものまね芸が中心となったもので、この時代の芸能は、寺や神社の前、町の中などで通りがかった庶民を相手に演じられていました。ですから、その技や知恵で道行く人たちを惹きつけた強いパワーの結集が、現代にまで続く狂言の魅力につながっていると思います。

 室町時代に演じられた狂言の演目が詳しく書かれた資料が茂山家にも残されていますが、その中にはいまに続くものもあり、かなり現代に通じるような形に整っていたと考えられます。また、この頃から狂言役者は、財力と権力をもった人たちに抱えられて生きていくことになりましたから、時代の流れに大きな影響を受けることになりました。戦国時代には世情の乱れの中で混乱しますが、やがて織田信長、豊臣秀吉の時代になると再び保護されて落ちつきを戻します。江戸時代には、能とともに幕府の儀式に演じられる式楽(しきがく)というものに定められ、経済的に安定した中で、さらに型がきちんと決められ、親から子へ代々その芸を伝承していく流れが整いました。

 しかし、明治維新で江戸幕府が消えると、式楽として大名家などに保護されてきた能楽師たちは解雇されてしまいました。そののち、来日した外国人に観せる芸能として、能は重宝されましたが、狂言は能が演じられるまでの休憩時間のように捉(とら)えられ、狂言の舞台上演中にも関わらず客席は騒がしく、まるで無関心の状態だったこともありました。近代は、つらい時代だったようです。

 第二次世界大戦後は世の中に「笑い」が求められるようになり、私のおじいさんである現・茂山千作(しげやませんさく―当時、茂山七五三 しげやましめ)や弟の千之丞(せんのじょう)、関東の現・野村萬(のむらまん―当時、万之丞 まんのじょう)さん、万作(まんさく)さんたちが、狂言以外にも活躍の場を広げて注目を集め、その上の世代たちによって磨き抜かれた芸は高い社会的評価を受けました。さらにそのあとの世代が続き、いまも多彩な活動をしています。

 現代になりやっと、狂言師が長い年月、営々と黙々と培ってきたその卓抜した技を示す時代がやって来たといえます。
 
 
狂言用語解説

【間狂言】(あいきょうげん) 能の中で、狂言方が演じる部分、または担当する役柄のこと。
【揚幕】(あげまく) 橋掛りと鏡の間を仕切る五色の布のこと。
【アド】 狂言の主役(シテ)に対するワキ役のことをさす。
【主】(あるじ) 主人、または雇い主のこと。
【謡】(うたい) 能・狂言で、フシがつけられた言葉をさす。
【おごう】(おごう) 娘のこと。
【追い込み】(おいこみ) 「やるまいぞ、やるまいぞ」などと言いながら、演者が舞台から揚幕にはいってゆくさま。
 
【鏡板】(かがみいた) 舞台の後ろの板。老松が描いてある。
【葛桶】(かずらおけ) 漆塗りの円筒形の小道具。曲によって、茶壷や酒樽になったり、蓋は杯など、と多彩な使われ方をする。
【肩衣】(かたぎぬ) 太郎冠者などが、着物の上に身につける上着のこと。室町時代の日常着がもとになっている。
【語り】(かたり) 狂言師に求められる舞、謡と並んで、重要な要素のひとつ。ひとりの演者が、本狂言や間狂言の中でまとまった物語を抑揚をつけて語ること。
【狂言謡】(きょうげんうたい) 狂言で謡われる歌謡を総じていう。
【狂言方】(きょうげんかた) 能・狂言の演者を能楽師といい、それをさらにシテ方、ワキ方、狂言を演じる狂言方に分類する。
【曲】(きょく) 狂言の作品の数え方。
【見所】(けんしょ) 客席のこと。
【後見】(こうけん) 能・狂言の舞台で、舞台正面に向かって左後奥に控えている紋付袴姿の者をさす。舞台の前に演者の着付けの手伝いにはじまり、揚幕の開閉、演者に必要な小道具の出し入れに加え、舞台上で演者に万が一の事があれば、演者に代わって舞台をつとめる重要な役目。
【子方】(こかた) 子ども、少年の役。または、子どもの役者。
【小舞】(こまい) 狂言小舞。狂言の中で、舞の部分だけをさす。紋付袴姿で独立した演目としても演じられる。
 
【座頭】(ざとう) 盲人の官位。
【地謡】(じうたい) 狂言のなかで謡を斉唱する紋付袴姿の人たちをさす。地謡の中で、主導するリーダーを地頭という。
【シテ】して(仕手) 主役。
【シテ柱】(してばしら) 舞台の左手の後ろにある柱。
【主人】(しゅじん) 狂言の代表的な登場人物。長く引きずった袴が特徴。大名も同じような装束をつける。→「盆山」では家の主(あるじ)が主人の装束です。
【しわい人】(しわいひと) けちな人。
【すっぱ】(すっぱ) 水破。どろぼう。悪い人。
 
【頼うだお方】(たのうだおかた) 主人のこと。
【太郎冠者】(たろうかじゃ) 使用人、従者のこと。二人以上の従者が登場する場合は、年齢や位が上の者から順に太郎冠者、次郎冠者となる。
【大名】(だいみょう) 江戸時代のような名のある人ではない。狂言に登場する大名は、従者は太郎冠者だけ、といった、あまりえらくない大名が多い。
【立衆】(たちしゅう) その他大勢の人々のこと。
【立頭】(たちがしら) 立衆の最初の人。
【止め】 能や狂言の終曲の部分。または終わり方。
 
【中正面】(なかしょうめん) 正面と脇正面にはさまれた、間の客席の区分。ちょうど目付柱を真ん中にして、左右に広がる。
【長袴】(ながばかま) 裾を引きずるような、長い袴のこと。
【名乗り】(なのり) 演者が舞台に登場して、まず最初に自分の名前などを自己紹介したり、これからしようとしている事を述べること。
 
【橋掛り】(はしがかり) 揚幕から舞台に向かって続く細長い廊下のような所。
【番組】(ばんぐみ) プログラム。
【半袴】(はんばかま) 足首までの長さの袴。狂言袴。太郎冠者などが身につけている。
【ビナン】(びなん) 美男鬘ともいう。女性役が頭に巻く白い麻布のこと。
【笛柱】(ふえばしら) 舞台の右手、後ろの柱。囃子方の笛の奏者が座る位置に近い。
【仏師】(ぶっし) 仏を作る人。
 
【目付柱】(めつけばしら) 舞台から見て左前方にある柱。面をつけたときの目印となる。
【道行】(みちゆき) 能や狂言で、劇中、登場人物が別の場所に移動したり、時間経過などを謡いながらすること。
 
【脇正面】(わきじょうめん) 橋掛り沿いから、シテ柱、目付柱までの客席の区分。舞台を横から見ることになる。演者の動きがわかりやすいので、ここを好んで座る人もいる。
【脇柱】(わきばしら) 舞台の右前方にある柱。演者が控えて座る脇座に近い。

 
 
役柄と装束
     
 
太郎冠者
 
狂言の代表的な登場人物で身分は低い。
太郎冠者の装束は室町〜江戸時代の庶民の着ていたものを派手にしたもの。
 
 
A肩衣(かたぎぬ)
生地はほとんどが麻。背中の大胆なデザインが楽しく、作品にちなんだ柄などもある。室町時代から代わらない柄ではなく、時代ごとに新しいデザインが誕生している。胸にある紋は「雪輪に蒲公英(たんぽぽ)」で能楽師共通の紋。
 
D腰帯
袴の外に出した肩衣を留めておくもの。
 
F狂言足袋(きょうげんたび)
昔、能楽師は鹿皮を白く仕立てた高価なものを履いていたが、一段低く処遇されていた狂言師は鹿皮そのままの茶色の足袋を履いていた、という名残(なごり)で黄色と白の縞。足の裏も黄色になっている。
 
 
@濃襟(こいえり)
黒、紺、茶など着物とのバランスで色を選ぶ。山伏や鬼、百姓なども濃襟。
 
B中格子熨斗目着付(なかごうしのしめきつけ)
元は模様ではなく織の粗さを表しているとも言われている。
 
C扇子
役柄によって、デザインや柄は異なる。
 
E狂言袴(きょうげんばかま)
立ち働きやすいように短く、身分の低さを表している。柄は「宝尽(づ)くし」。
 
 
 
     
 
主人・大名
 
狂言の代表的な登場人物。太郎冠者の主人や大名などがこの装束。
 
 
B段熨斗目着付(だんのしめきつけ)
偉い人が着る、または外出着。
 
C肩衣は外に出さないで着る。
 
 
 
 
@薄襟(うすえり)
主人や果報者(かほうもの)、大名など身分が高い人の襟は水色など薄い色。さらに上の位の大名や神様は赤い襟になる。
 
 
A長裃(ながかみしも)
長くひきずった袴が特徴。当時の正装で、今で言うとスーツになる。
 
 
 
 
 
     
 
他にも以下のような役柄・装束があります。
 
「果報者(かほうもの) ―長者(お金持ち)のこと。大名とスタイルは似ているが身分が違う。
紅白の段熨斗目着付(だんのしめきつけ)を着て、素袍(すおう)というたっぷりとした着物と長袴をつけます。
   
「女(妻)」 ―美男鬘(びなんかづら)という一枚の長い白い麻布を頭につける。基本的には面はつけませんが醜女(しこめ)や老女はつけます。
   
また、面(おもて)は動物、鬼、神様などに使用します。
 

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